熊の肉
やっといつもの冬らしくなって、初老の体には年々厳しい寒さが身に応える月になった。
先日、山深くに居る従姉妹に届け物があり、雪道をジムニーでドライブ気分でちょっくら行って来た。
40分程で着き、玄関で用事を済ませ帰ろうとしたらアネさんが「熊の肉ある。食ってげ(秋田弁:食べていけ)。」と言うので、久し振りに来たのだからと思い、上がってコタツに入った。
ちょっと前まで、居間の中央には薪ストーブがありコタツなど無かった。小さい頃、遊びに来てはストーブの火が弱くなると勝手に部屋の隅にある薪を一、二本ストーブに入れて面白がった事を思い出す、そういえば、昔この家には、猟をする時に使う銃身が長い村田銃が居間の鴨居に掛かってた記憶がある、「マタギ」だったのか?この家は…。
そんな事を考えてると「妹の旦那が獲って来たのを、貰ったんだ」と言ってコーヒーと熊の味噌煮込みが一緒に出て来た。今までエゾシカの肉、ヤギやウサギの肉、カエル、スズメと食べたことはあるが、熊の肉は初めて食う気がする、
いや、小さい頃この家で何も知らずに食っていたのかもしれないが、「熊」という記憶がない。「熊の肉は体が温まるよ、さあ食べで…。」と言われ食べてみると「ん~っ、肉だ」としか言いようがなく「旨い」と言うと、アネさんは熊の肉料理は自信があるようで「ニコッ」としていた。
確かに冬の熊は冬眠のため一生懸命ドングリを食い続け脂肪たっぷりなので、赤身の肉なのに脂っぽく処理が上手かったのか臭みもなく、濃厚な甘みがあり、ん~っ、酒飲みたくなった。このまま居れば飲んでしまいそうなのでコーヒー飲んで帰る事にした。
アネさん「今度は泊り掛で来い」といって小屋から沢庵を出してきてジムニーの中に…、そして山を下った、帰り道は、妙に体がホカホカしてきた気がして、沢庵の匂いが充満する車内で思わず笑ってしまった。
後に、おふくろに聞いたら「そうだ、おまえの死んだ伯父さんはマタギだった、知らながったのが?」。知らなかった…。